新着情報

2005-07-31 18:21:00

『夕刊フジ』 平成17年(2005年)7月

カギは「中古住宅市場」
税制の改正も
価値認められる米国は耐震補強も真剣


 神戸市長田区のJR新長田駅南口。真新しいビルの合間に、更地がやけに目につく。

 阪神大震災で建物の8割が倒壊・焼失した同地区は、神戸市が2710億円をつぎ込み41棟の住宅兼商業施設をつくる復興再開発事業を進めるが、完成したのはいまだに20棟。震災発生直前13万人だった同区の人口は、10万4000人まで減少した。

 震災から10年。約10兆円とされる被害に投じられた公費は、推計16兆3000億円。だが国などは、「私有財産の形成に公費は充てられない」との立場で、仮設住宅に対しては1軒あたり数百万円を投じても、倒壊した家の再建に直接の補助はなかった。今もローンに苦しむ人は多い。

 神戸市の自己破産件数は、震災直後に比べ6・7倍に増加。日本全体が不況のただ中にあったとはいえ、全国の4・3倍から突出する。

 東京が第2の神戸とならないためには、どうしたらいいのか。その鍵は「中古住宅市場にある」と専門家は口をそろえる。

 「スクラップ・アンド・ビルド」の伝統が根強い日本の住宅の耐用年数は平均26年。米国の半分、英国の3分の1である。いくら大切に住んでも、築年が古ければ、むしろ更地のほうが条件が良いと見なされる。

 「しかし米国では、新築が1としたら中古は1・2の価値。古くから人が住んでいる所は周辺環境が安定しているし、リフォームなどで家にお金をかければ当然のこと。だから皆、まじめに耐震補強をしようとする」と、防災都市研究所の村上處直氏は指摘する。

 プロに頼らず、自分でトンカチを手に補強をする人も多い。「日本の技術者は完璧を求めるが、米国人は『じいさんの建物はじいさんなりに補強すればいい』という。完璧を求めて何もできなくなるより、ホドホド補強でいい」(村上氏)。

 金谷年展・慶応大学助教授は「比較的新しい家なら耐震改修は有効だが、古い家をきちんと補強するには莫大なお金がかかる。昭和56年の建築基準法改正以前の住宅については、新築のほうがたやすい」とし、こう説明する。

 「減価償却の考え方がある現行の税制では、家は長持ちすると『得』と見なされ税金がかかる。しかも高価な住宅とは、内装が豪華な家のことで構造躯体は無関係。100年もつ住宅を建てる人には60~70年のローンを認め、中古住宅の価値を認める税制に改めるべき。中古住宅が正しく評価されれば、子供がいない人がローンを組んでも売却できる」

 「努力している人が報われる仕組みを」と訴えるのは、目黒公郎東大教授(都市震災軽減工学)だ。「事前に持ち主が自前で耐震診断を受けて改修の必要がないと判定された、または改修をして認定された住宅が損傷を受けた場合、行政から優遇支援される」システムを提案する。

 さらに「耐震改修実施者の共助システム」として、耐震改修時に一定額を積み立て、万が一の場合に支援を受ける共済制度の創設などを提唱する。

 地震が、あなただけを避けてくれることはない。自分のみは、自分で守るしかないのだ。(内藤敦子)

 


2005-07-30 18:22:00

『夕刊フジ』 平成17年(2005年)7月

業者にもユーザーにもメリットない耐震改修
「やめた。どうせなら建て直そう」
リフォームのように効果見えず


 4月11日午前7時34分。千葉県北部で震度5強の地震が発生した。

 東京・下町の築43年の木造住宅に住む私たち一家は、朝食の最中だった。

 情報を次々と流すテレビを見つめながら、夫(40)と私は、どちらかともなくわが家の耐震改修の話を始めた。

 いつになく激しい揺れ。わが家は昨秋、取材サンプルとして耐震診断を受け、「大倒壊の危険あり」と判明。3月になってようやく、150万円をかけて「逃げる一瞬」を確保する補強工事をする契約をした。

 だが、本当にそんなことで助かるのか。150万円かける価値はあるのだろうか。

 私はひそかに疑問を感じていたものの、夫には言っていなかった。幸い、契約をした耐震診断・補強専門の都内建築事務所は、相次ぐ耐震診断の依頼で忙しいらしく、契約から数週間を経たこの時まで、連絡がなかったのだ。

 「どうなんだろう」。夫がいう。150万円の耐震補強により建築事務所社長が「保障できる」としたのは「震度5弱」だった。それより強い揺れが、すぐ近くで起きた。「意味がないよ」。私は応じた。「だってこの家、古いから、今お金をかけてもまたすぐ悪いところが出る。いずれは建て直さないとしようがないのに、無駄なお金にならない?」「やめた。どうせなら今、建て直そう」

 耐震性が不十分と見られる、昭和56年の建築基準法改正以前に建てられた住宅は、平成10年の調査では、全国で1400万戸あった。それが15年には1150万戸に減っている。だが国土交通省によると、減少分は大半が「建て替え」による。耐震補強をしたのは、ごくわずかだ。

 政府は減災対策として全住宅戸数5000万個のうち、現在の75%を10年後に90%に引き上げる目標を掲げた。日本建築防災協会の杉山義孝専務理事は「5年間で250万戸が建て替わった。順調に行けば10年後にはあと500万戸建て替わる。(目標達成は)不可能ではない」と楽観視する。

 だが、慶応大学助教授で住宅の耐震化に詳しい金谷年展氏は、「50台以上や、年金生活をしている人たちは、危険な住宅に住んでいても建て替えることもできない」と指摘したうえで、こう断言する。「一方で耐震改修は、業者もユーザーもメリットを感じられない、できればやりたくない仕組みになってしまっている」

 先日、埼玉県で地方の老姉妹が大量の耐震器具などを悪徳業者に売りつけられた事件が発覚したが、不安に付け込んで器具を売ろうとする業者は、今も後を絶たない。詐欺までいかなくとも、「結果をわざと悪くして、過剰な補強を行う業者も少なくない」(業界関係者)との指摘もある。

 このため耐震診断に補助をする自治体の多くは診断と施工の業者を分けることを前提とするが、「床下に潜ったりする必要がある大変な仕事の診断だけを、やりたい業者はいない」(金谷氏)

 一方で受ける側には「リフォームのように効果が見えない」(同)。「建築基準法改正以前の古い住宅を補強しようとすると、限りなくお金がかかる。診断の信頼度を高めるため基準を強化すると、「お金がない人には極めて残酷な結果になってしまう」

 その指摘は、耐震補強に私が感じていた疑問そのものだった。(内藤敦子)

 


2005-07-29 18:23:00

農林金融2005・7 <談話室>

 「でんでんむしむしカタツムリ」で誰もが子どものころから親しみをもってきたカタツムリ。ところでこのカタツムリの殻が汚れているのを見たことがあるだろうか。

  泥水をかぶっても、自分で洗うわけでもないのに殻の汚れはいつの間にかきれいに落ちている。なぜいつも自動的にきれいになってしまうのか?それにはいろいろと、秘密がある。

  実はカタツムリの殻は、その構造や表面の形状の膜などとてつもなく精巧な究極の防汚システムでできていたのである。トイレなどで有名な大手メーカーINAX者はこうしたカタツムリに学び、水まわりなどの防汚システムを開発した。

  このように動物には未だ人間には到達できていない超テクノロジーが未知数に存在している。

  たとえばクモの糸がある。クモの糸は鉄鋼の10倍も強く、直径0.5ミリの糸で体重60キロの人をぶら下げることができる。しかも、石油由来のポリマーより25%軽く、よく伸びる。こうした糸をクモは常温常圧で、しかも非常に小さな身体の中でつくりあげてしまう。ある種のクモは自分のぶら下がる牽引糸、部分部分を結びつける付着糸、えさを捕獲する粘着糸、かかった獲物をぐるぐる巻きにする包糸、網の補強糸、風や気流に乗って旅する食べの遊糸の6種類の糸をつくり、使い分けているのである。

  いくら繊維メーカーが人工的にクモの糸を作ろうとしてもこの性能にはとうてい追いつけない。しかし、もしクモの体内の微細構造やそのナノレベルのメカニズムが解明できれば、人工的にクモの糸を作り出す、あるいはそれに限りなく近づくことができるかもしれない。

  これ以外にも「水族館で水槽内を何百匹、何千匹とかなりのスピードで泳いでいる魚たちはなぜ互いにぶつからないのだろう」「人間はたかだか36~37℃の体温でなぜ体内でこれほどまでに高度な化学反応を起こしているのだろう」など解明できていない生物のもつ潜在的なテクノロジーがまだまだあるのだ。

  こうした技術は、「生物模倣技術」と呼ばれているが、これに「持続可能な自然素材を活用して、従来の人工素材を上回る性能を実現させた技術」を加えて私はそれをネイチャーテックと呼んでいる。

  ネイチャーテックは総じてライフサイクルの環境負荷が小さく、かつ自然のエンジニアリングとして歴史のなかで環境に調和してきた時を経た技術であるため、副作用も極めて小さいのが特徴だ。

  一方、石油なども基本的には非常に長い時間をかけて自然が作り上げた自然素材とも言えるが、現在人類が使用しているような石油の量を短いタイムスケールで再生産することは不可能なため、有限で持続不可能な自然素材と言える。また、それから人工的に合成されたさまざまな樹脂などは、持続不可能な資源から人工のエンジニアリングのプロセスを経たものであるため自然素材とは言えず、したがってこれを活用した技術はネイチャーテックには含まれないことになる。

  ネイチャーテックの代表格として1992年7月にブラジルのバラ大学がダイムラーベンツ社(現在のダイムラークライスラー社)の協力を得てスタートさせた、「POEMA」と呼ばれるアマゾン流域の貧困と環境を守るプロジェクトがある。

  このプロジェクトはアマゾンのマラジョー島において熱帯林の再生事業をスタートさせるとともに、その持続可能な林産資源から自動車部品を生産するというものだ。たとえばココナツの殻を分解して繊維を取り出し、天然ゴムの木からとれた生ゴムと合成して成形し、自動車のヘッドレストを生産するのである。森林を守りながら、地域の未利用資源を活用して付加価値の高い自動車部品をつくるのである。

  それ以外にもPOEMAでは、ヒマシ油などの植物からつくったギア用や油圧用の潤滑油の開発や、アマゾンのヤノマニ族も伝統的に用いてきた植物染料「ウルクン」の自動車用塗料化への開発にも成功している。まさに、“畑で取れるメルセデス・ベンツ”と環境の専門家たちから呼ばれる取り組みである。
  その結果今では、熱帯林を保護したままで5千人以上の新規雇用を生み出した。

  実はこの持続可能な自然素材を活用した自動車部品生産は、熱帯林という生態系の保護につながったことと、新たに雇用が生まれ地域経済が活性化したことのほかに、石油など化学燃料節約につながり、地球温暖化の元凶であるCO2排出も大切するなど一石何鳥もの数多くのメリットを生み出したのである。

  持続可能な社会をつくるためには、これまで見落として来たネイチャーテックにこそ目を向けるときであろう。

 


(慶応大学大学院政策メディア研究科助教授 金谷年展(かなやとしのぶ)


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