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2002-01-22 14:02:00

『河北新報社』平成14年(2002年)1月22日

「この車に使われている技術は、きっと二十一世紀に起こる産業革命の核になりますよ」

これは、七年前に取材で訪れたドイツのメルセデス・ベンツ本社(現在のダイムラークライスラー社)で、当時のベルナー社長が最初に語った言葉である。

この技術とは、今や数年後の商品化へ向けて世界の主要企業が開発競争を繰り広げている、燃料電池のことだ。

小泉首相が去年十二月、開発中の燃料電池自動車に試乗して「これは究極の車だね。後はコストの問題だけだろう。閣僚はみんなこれに乗らなきゃ」と言った話は記憶に新しいが、私が七年前に世界初の燃料電池試作車に乗ったときは、後部座席が燃料電池で埋め尽くされ、果たして二十一世紀中に実用化されるのかと思ったものだ。

しかし、この七年間の技術発展によって、新たな産業革命、そしてエネルギー革命をも引き起こす可能性が出てきた。

燃料電池とは、水素を燃やさずに空気中の酸素と化学反応させて電気と水をつくる、水の電気分解と逆の過程で発電させる装置のことだ。燃料電池そのものからは地球温暖化の元凶である二酸化炭素も大気汚染の元凶である窒素酸化物や硫黄酸化物も一切排出しないため、究極のクリーンエネルギーとも呼ばれている。

燃料の水素は天然ガスや石油といった従来の化石燃料、アルコール燃料、バイオマス資源、有機性廃棄物、光触媒による水の分解などさまざまなものから取り出すことが可能なため、地球に無限に存在すると言ってよい。従って燃料電池は、日本でエネルギー自給への道筋をも開く可能性がある。

しかし、なぜ今これほどまでに燃料電池が注目されるに至ったのか。それは、同じ発電量で比較すると、太陽光発電の十分の一の容積で済むため、量産化によるコスト削減への期待が大きいためだ。

火力発電など既存の発電施設は、キロワット当たり約二十万円の建設コストがかかるが、自動車メーカーが想定している燃料電池の目標価格はキロワット当たり一万円以下である。二〇二〇年には燃料電池のマーケットが国内で数十兆円、世界では数百兆円になると試算されており、現在大きな経済波及効果が期待できる数少ない技術である。

自動車のエンジンが燃料電池に取って代わり、一家に一台燃料電池が導入されて各家庭の電気と熱を賄うようになり、充電なしに三十日間連続して使える携帯電話が当たり前になる。燃料電池がわれわれの周りのあらゆるものに入ってくる時代が来るのは、そう遠くないかもしれない。

ねぶたを燃料電池で-。こうした動きが、青森県内の市民らの間で起こり始めている。これまで、ねぶたには重油ディーゼルエンジンが使われ、ねぶた一基で重量が約 1t にも達し、その排ガスも課題だった。

だが、これを燃料電池に替えれば重さは三分の一になり、排ガスも一切出ない。軽くなった分、ねぶたづくりの自由度も増すという。

青森県といえば「原子力」のイメージが強いが、こうした市民レベルの動きに加えて、県も燃料電池を核とした水素エネルギー先進実証地域構想に着手し始めた。

燃料電池の普及には、エネルギーに関する規制の改革や業界再編も必要となるため、他分野の構造改革同様、抵抗勢力が存在する。しかし、この改革を断行しないと、せっかく経済と環境を両立させる燃料電池が技術的に完成しても、社会への浸透が大幅に遅れてしまいかねない。

従来型大規模施設を誘致する側として抵抗勢力の一翼となることが多かった青森県が、マイクロパワーである燃料電池で地域振興を図ろうという試みは大変興味深い。業界関係者ならずとも、目が離せない。


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