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2003-09-09 13:49:00

●『毎日エコノミスト』  平成15年(2003年)9月9日

燃料電池・水素エネルギー利用の課題

100兆円規模の新規マーケット創出が期待される水素エネルギー社会。しかし、規制緩和やインフラ整備など解決すべき課題は多い。

2002年12月、トヨタとホンダが世界で初めて燃料電池自動車を政府に納入した。家庭用燃料電池やパソコン、携帯電話用の燃料電池も05年度中をメドに実用化される見込みで、いよいよ燃料電池・水素エネルギー社会の入口にさしかかってきた。

経済産業省の試算では、燃料電池自動車は2010年に5万台、20年に500万台、定置型燃料電池は10年に210万キロワット、20年に1000万キロワットに達すると予測しており、20年までに燃料電池関連で累計100兆円の新規マーケットの創出が見込まれている。

現在、まさに燃料電池商品化へ向けたメーカーの開発競争が激化しており、数年内に勝ち組みは絞られてくると考えられる。しかし一方で燃料電池の実用化、商品化には技術的課題も山積している。燃料電池自動車は、低温での作動性や航続距離の問題、定置型燃料電池は耐久性などが、まだ解決されていない。コスト面でも自動車で2ケタ、定置型で1ケタ下げなければならないのだ。だが、個々の企業が解決すべき課題については、私はある程度楽観視している。ここ4~5年、多くの燃料電池メーカーや関連企業と継続的にそうした課題を検討していると、それらの8割以上が予想より早く目標の水準に到達しているからだ。

インフラ整備が急務

企業の開発投資意欲が鈍ることがない限り、燃料電池が商品として市場に受け入れられる品質水準に達するのは遠くないだろう。それより私が燃料電池普及を大きく左右すると考えるのは、水素インフラと余剰電力の売電価格の二つの問題である。これらは、民間だけで解決できる問題ではなく、政府の役割が非常に大きいものだ。

水素インフラの整備については、政府は今年度、首都圏に複数の方式で6カ所の水素ステーションを建設中だが、普及に向け、より具体的な施策や方針を打ち出していく必要がある。というのも、燃料電池自動車普及における、水素ステーションと燃料電池自動車量産化の関係は「にわとりが先か卵が先か」のようなものだからだ。水素ステーションが増えなければ、燃料電池自動車は量産化されない。量産化されなければ、採算面から水素ステーションはつくれないというジレンマがある。

さらに問題なのは、水素ステーションで供給する水素の製造や調達をどうするのかということだ。天然ガス、ナフサ、灯油、LPガス、DME(ジメチルエーテル)、太陽光による水電解など様々な方式が考えられる。そのなかで最も期待が高いのは、供給量や改質の容易な天然ガスだが、現在、日本には天然ガスの幹線パイプラインがない。パイプラインが整備されれば、天然ガスを低コストで調達できるようになり、水素製造コストも安くなる。こうした諸インフラを整えていけば、一気に燃料電池普及を後押しすることになる。

もう一つの燃料電池普及への大きな障壁は、定置型燃料電池の余剰電力の売電価格の問題だ。定置型燃料電池の余剰電力の売電価格が極めて低く設定されると想定されるが、電気を余らせない運転だと燃料電池コージェネレーションによる光熱費削減効果が小さくなる。これでは、メリットの出る家庭が著しく少なくなってしまう。

これに関しては、コミュニティーで分散型電源をネットワーク化してマネジメントし、電気を各需要家間で融通できるシステムにすれば、コミュニティー全体として光熱費削減効果が大きくなるというシミュレーション結果が示されている。しかしながら、現状は、こうした分散型電源のネットワーク化を視野に入れた送配電網の開放や再構築といった議論にまでは、至っていない。

ただし、今年に入って新たな動きも出てきた。内閣府が法制化した地域だけ国とは規制の枠組みを変えるという構造改革特区として、青森県などいくつかの地方自治体がエネルギー規制緩和の特区として認定されたことだ。今後、これらの特区構想では、電力自由化の先行実験として分散型電源のネットワーク化の実証試験を行ったり、実際にビジネス展開が可能となるような規制緩和を実施することになる。こうした特区構想の実現の中で、燃料電池の有効性が実証されれば、燃料電池普及により大きなはずみがつくだろう。

ここにきて国土交通省内でも、道路や港湾、ダムなど公共投資の枠組みに「水素インフラ」という、未来の産業を拓き、環境問題の解決につながるインフラ投資を入れていくという議論も出始めているという。燃料電池の普及が政府の目標値を上回るか下回るか、それはまさに政府の対応にかかっている。