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2004-09-30 13:36:00

本誌は全国の工場を対象に、省エネに関する意識調査を行った。効果的な対策で、さらなる省エネ効果を生む可能性が浮き彫りになった。

 

◆調査の概要◆
日経エコロジーが全国6528のエネルギー管理指定工場を対象に、工場における地球温暖化対策の実態についてアンケートを実施した。調査機関は2004年2月1日~3月16日。1044事業所から有効回答を得た。金谷助教授には集計データ加工後のアンケート結果の分析を依頼した。

●大規模工場にも残る省エネのポテンシャル

 「日本の大企業の工場は、既に省エネへの取り組みを世界一の速さで進めている。さらなる省エネのポテンシャルは、もはや、さほど大きくは残されていない」・・・。
 近年、日本では民生用、運輸用のエネルギー消費量が大きく伸びるなかで、工場など産業用のエネルギー消費量は既にほぼ横ばいになっている。そのため、環境・エネルギー問題に関心のある多くの人が、こうした考えを共有している。
 特に燃料電池や超高効率ヒートポンプといった、最近話題に上っている最新技術への関心は強い。とはいえ、ボイラーや炉の高効率化、排熱の有効活用などの熱マネジメント技術については、目新しさもなく、工場などの事業所でも、既にやり尽くしたという意識が強い。
 しかし、今回、日経エコロジーが行ったエネルギー管理指定工場へのアンケート調査では、大規模工場では、というよりも大規模工場ですら、こうした熱マネジメント技術の導入が進んでおらず、省エネの隠れた大きなポテンシャルとして、いまだ残っていることが明らかになった。

●事業所の9割が省エネを意識

 今回の調査対象となった大規模事業所のうち、環境・エネルギー関連のビジョンや方針を策定し実行している事業所は88%に達している。さらに省エネや二酸化炭素(CO2)の排出削減を担当する組織も、既に7割の事業所で存在していることがわかった。
 また省エネに関する目標設定をしている事業所は、94%にも上っている。そのうち前年比で目標を設定している事業所が最も多く、全体の約3割を占めた。次いで「基準年からの削減率を2005年までの目標として設定している」「基準年からの削減率を2010年までの目標として設定している」との回答が多くなっている。なお、前年比で目標を設定する事業所の実に9割以上が「前年比1%以上」の省エネを目標にしている。
 一方、CO2排出量の削減を目標設定している事業所は、全体の56%と、省エネ法改正の効果が表れてきている。だが省エネ対策に比べ、CO2の削減に対する意識は、いまだ十分に浸透しているとは言い難い。
 この調査の結果で興味深いのは、工場管理者が考える、省エネ・CO2削減の効果が高い対策を尋ねた質問への回答だ(グラフ4)。

●過去の技術を再評価 まだまだ残る省エネの余地

 評価の高い対策の第1位は、「電気の動力、熱などへの変換(電動冷凍機、ポンプ、ファンなど)の効率化」である。これは省電力、すなわち「電気のマネジメント」ともいえる対策で、昨今のヒートポンプなどの技術進歩が大きく寄与している。特に電動冷凍機の消費電力当たりの加熱能力を示すCOP値は、約20年前に比べて約1.5倍にまで向上した。こうした高効率の電動冷凍機については、比較的、設備の更新が進んでいるようだ(グラフ8)。
 またポンプやファンに対しては、効率的に稼動させるためにインバーターを設置する事業所が増えている。通常100%フルに運転することが少ないポンプなどにインバーターを取り付けて、必要量に応じた運転をしようというものだ。
 この方法は、ESCO(省エネ支援サービス)事業では定番の省エネ商品になっている。高効率電動冷凍機やインバーターが、工場の省エネにおける有効な手段として浸透してきている様子を把握できる。

●熱の活用に大きな評価も

 だが第2位、第3位、そして大5位に挙がった対策は、いずれも熱をいかに効率良く作り、使うのかを管理する、いわゆる「熱マネジメント」による省エネ対策だ。
 グラフ4に示した対策の実施状況と、実施への意欲を尋ねた質問では、「ボイラー、炉などの燃料の燃焼効率の向上」による対策について、全体の約20%以上が「まだ実行していないが今後実行したい」と回答した。グラフ4に示した対策のうち、回答者の興味と実施意欲が最も高かった。
 ボイラーと炉を比べると、燃焼時の排熱の再利用や燃焼制御など、省エネの工夫の余地の大きい炉の方が、省エネのポテンシャルが高いと考えられる。特に燃焼時の排熱を蓄熱利用することで熱効率を高める「リジェネレーティブバーナー」は、従来品に対して30~40%の省エネを実現する技術だが、十数年前から日本でも実用化されてきている。
 こうした状況にもかかわらず、今回の調査ではボイラーや炉の効率化を既に実施している事業所は、いまだ全体の約40%にとどまっている。
 技術またはシステムとして確立され、既に各事業所で実行段階にあると思われていたボイラーや炉の省エネ対策も、大規模事業所ですら取り組みの途上にあるということだ。
 実際に、蒸気ボイラーは89年以前に導入した設備の数がいまだ多く残され、炉に至っては90年以降の設備の数を大きく上回り(グラフ8)、古い設備の更新が進んでいないことがわかる。
 最新のボイラーや炉では、85年比で3~40%もの省エネが見込める。こうした旧型設備の更新だけでも、実は潜在的に極めて大きな省エネのポテンシャルを持っているのだ。
 第3位に挙がった「加熱および冷却、電熱の効率化」は、ここ十数年間で高効率化した吸収冷凍機の導入や更新などが代表的な取り組みである。この取り組みと、第5位の「排熱の回収利用」は、それぞれ全体の54%、62%と高い割合で実行済みであるものの、両者ともに実行済みの事業所のうち約8割が「今後さらに追加で実行を予定している」と答えた。
 この2つの対策についても、実行による省エネのポテンシャルは、依然として大きい様子がうかがえる。
 その他では、効率が高い省エネ対策として第4位に挙がった「熱の動力などへの転換による効率化(コージェネレーション:熱電供給)」は、「既に実行している」と回答した事業所は全体の32%にとどまった。しかし、今後、導入の予定があると答えた事業所も約3割ある。
 2004年6月に資源エネルギー庁が発表した「2030年のエネルギー需給展望(中間とりまとめ原案)」では、2030年までに、現在、約3%にとどまっている分散型電源の全電力需要に対する比率が、約20%にまで伸びる可能性があるとしている。
 この実現には、今回の調査結果に現われた大規模事業所によるコージェネ導入の意欲が、今後、中小企業にも広がることが、前提となるだろう。

●省エネ対策を意識しつつも実現できない理由は?

 では、省エネ対策を進めるうえでの課題は何だろうか? 今回の調査では、課題の第1位は断トツで「導入費用」という結果が出た。回答率は約90%に達している。
 またCO2の排出量を1t-CO2削減するためのコストについても「わからない」「排出量を把握していない」という回答が全体の約8割を占めるなかで、コストを把握していると答えた事業所では、「1t-CO2当たり2万円以上」という回答が多かった。かなり高額の削減コストが必要となる状況がうかがえる。
 回答者に自由に記入してもらった政府への要望も、「設備の導入補助金や、税制優遇などの経済的支援の拡充」を求める声が、圧倒的に多い。

●最大の課題は導入費用

 これまでに政府は、工場などの省エネ推進を目的に、独立行政法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」を主管として「エネルギー使用合理化事業者支援事業」を公募して、補助制度を実施してきた。事業所はこの制度を活用して、コージェネの導入やポンプ、ファンへのインバーターの設置などの対策を組み合わせ、補助を申請するケースが多い。
 しかし、例えば工場炉の省エネ対策の代表格である、リジェネレーティブバーナーを採用した高性能工業炉は、重点支援項目として挙げられているのだが、近年、採択される件数が減少する傾向にあるようだ。
 さらに、この補助は近年、大規模な事業所に支給される割合が増加している。補助金の受給対象企業の選定に当たっては、削減可能なエネルギー消費量などが重要な評価項目になっているものと考えられ、中小企業には利用しづらいようだ。
 今回の調査対象となった大規模事業所でも普及が進んでいないところをみると、中小企業ではこのような熱マネジメントを有効に行う省エネ設備は、ほとんど導入されていないとみるべきだろう。
 熱マネジメントによる省エネ対策に総じて言えるのは、技術やシステムなどに関する情報が不足している点だ。調査の回答にも、この点を指摘している声が多い。
 特に「排熱の回収利用」に関する情報の少なさを、回答事業所の30%以上が課題として挙げている(他の対策については、平均約18%)。
 今回の調査結果では、ESCO事業を行う企業から提案を受けたことがある工場は、全体の73%に達している。だが、これらの多くはインバーターやコージェネといった省電力化の支援がサービスの中心である。診断に手間がかかり、かつ高度なノウハウが必要となる熱マネジメントを、省エネサービスとして行う会社は、実はあまり存在しない。
 熱マネジメントは省エネ装置を単に取り付けるだけでは駄目で、熱を利用するシステム全体で、省エネを検討しなければならないケースがほとんどである。工場での熱計測によって現状の問題点を把握する技術と、得られた計測データを基に、工場で生産する製品の特徴までも考慮した、総合的な診断能力が要求される。
 こうした提案が少ないことが影響してか、ボイラーや炉などの効率化を実施済みの地域別に見ると、関西地方だけが60%を超えているものの、その他の地域では約40%にとどまっている。

●省エネと省コスト 両立できないジレンマ

 導入後のランニングコストの増大が足かせになって、実施に二の足を踏む事業所が多いのが、「石油燃料の天然ガス化」である。
 前出の省エネ、CO2削減に効果的な対策を挙げる質問では、石油から天然ガスへの燃料転換が第6位と、評価を得ている。そして、この対策が「効果的である」と答えた人の実に9割が、「ランニングコストが課題」と回答していた。

●天然ガス転換にも費用のカベ

 天然ガスのパイプラインが整備されている地域でありながら、コストが高くつくことを理由に、重油などの石油を燃料として使うケースも少なくない。
 重油などと比較して、熱量当たりの燃料単価が割高な天然ガスに転換する場合、省エネを図れる高効率の設備を導入しないと、ランニングコストの課題が生じてしまう。特に、燃料消費量が少なく、燃料単価が割高になる中小規模の事業所ではなおさらだ。
 しかし、高効率の設備を導入するとなると、一般的にお設備価格が高く、今度は導入費用が燃料転換の障壁となってしまう。一方で、導入費用が少なくて済む設備では、大幅な省エネを期待できず、結果としてランニングコストが高くなる。
 天然ガスへの燃料転換が効率的と認めながらもランニングコストを課題に挙げたこの調査結果は、各事業所が抱えるこのようなジレンマを、浮き彫りにしたといえるだろう。
 だが一方で、天然ガスのパイプラインさえ整備されれば、天然ガスに燃料転換したいというニーズも強い。政府の施策への要望や意見として「地方では天然ガスを利用できるインフラが無いので、国策として天然ガス化を進めてほしい」という意見も見受けられた。
 他の要望としては、「電動冷凍機、ポンプ、ファンなどの効率化」「熱の動力などへの転換の効率化(コージェネ)」といった省電力にかかわる対策について、「効果の評価が困難」という回答が多い。
 省電力によるCO2排出量の削減効果を評価するには、電力削減量に、電力を供給する電力会社のCO2排出原単位を乗じて求める。このCO2排出原単位として、年間を通してフル稼働する原子力発電での発電量を含む「全電源平均」を使用するべきか、需要の変動に対応している火力発電所でのCO2排出量に基づく原単位「火力平均」を使用するべきかで、議論がなされている。
 この議論は結論がいまだ見えていないが、「削減したCO2の明確な評価方法を確立してほしい」という意見が目立っている。
 省エネ、CO2削減に関するトピックのうち、関心の高いものを選択肢のなかから選ぶ質問では、「電力自由化」が85%と、最も関心が高かった。
 電力自由化を先取りした青森県の環境エネルギー創造特区に関して、2003年冬に東京で行われたシンポジウムには、主催者の予想を大きく上回る約500社が参加した。今後、分散型電源をネットワーク化するマイクログリッドの実証試験も予定されている。マイクログリッドが実用段階に入れば、工場内の自家発電で作った電気を、高い価格で周辺の施設へ販売することも可能となる。
 将来は工場へのコージェネ設備の導入によるインセンティブが、高まることが予想される。

●今こそ熱マネジメントを再評価

 マスコミに発信してほしい情報を自由に回答する質問では、「省エネの成功事例やトップランナー情報」という回答が圧倒的に多かった。自由記入欄に回答した242社のうち、その約半数で、こうした意見が寄せられている。
 省電力技術として定着しつつある高効率ヒートポンプやインバーター、全国で省エネサービスの営業が激化するコージェネの情報は、入手しやすい状況にある。
 だが前述したように、ボイラーや炉の効率化、排熱の回収・利用という熱マネジメントについては、事業所の興味が高くても、成功事例やトップランナーの情報収集が難しいというのが現実のようだ。今回の調査対象である大規模工場ですらこうした回答が大半を占める状況では、中小規模工場の窮状はなおさらだろう。
 しかし「熱マネジメント」は技術的な目新しさに乏しく、政策として国が旗を振るという形になりにくい。政策の方向性を答申していく審議会のメンバーにも、熱マネジメントの専門家がほとんどいない現状も影響していると考えられる。
 だが今こそ、企業も行政も、古くて新しいテーマである「工場の熱マネジメント」を徹底させていく時ではなかろうか。
 企業はまず、熱マネジメントが省エネ、CO2削減の大きなポテンシャルを残していることを再認識することが第一だ。その上で、省電力も含めた対策を検討することが重要だ。
 一方、政府も前述したように、熱マネジメントによる工場の省エネを支援できる、きめ細やかな補助の仕組みを構築していくことが必要だ。さらに加えて、大きなポテンシャルをはらむ産業界の熱マネジメントを進めるために、政策のタスクフォースも必要ではないだろうか。