新着情報

2005-07-29 18:23:00

農林金融2005・7 <談話室>

 「でんでんむしむしカタツムリ」で誰もが子どものころから親しみをもってきたカタツムリ。ところでこのカタツムリの殻が汚れているのを見たことがあるだろうか。

  泥水をかぶっても、自分で洗うわけでもないのに殻の汚れはいつの間にかきれいに落ちている。なぜいつも自動的にきれいになってしまうのか?それにはいろいろと、秘密がある。

  実はカタツムリの殻は、その構造や表面の形状の膜などとてつもなく精巧な究極の防汚システムでできていたのである。トイレなどで有名な大手メーカーINAX者はこうしたカタツムリに学び、水まわりなどの防汚システムを開発した。

  このように動物には未だ人間には到達できていない超テクノロジーが未知数に存在している。

  たとえばクモの糸がある。クモの糸は鉄鋼の10倍も強く、直径0.5ミリの糸で体重60キロの人をぶら下げることができる。しかも、石油由来のポリマーより25%軽く、よく伸びる。こうした糸をクモは常温常圧で、しかも非常に小さな身体の中でつくりあげてしまう。ある種のクモは自分のぶら下がる牽引糸、部分部分を結びつける付着糸、えさを捕獲する粘着糸、かかった獲物をぐるぐる巻きにする包糸、網の補強糸、風や気流に乗って旅する食べの遊糸の6種類の糸をつくり、使い分けているのである。

  いくら繊維メーカーが人工的にクモの糸を作ろうとしてもこの性能にはとうてい追いつけない。しかし、もしクモの体内の微細構造やそのナノレベルのメカニズムが解明できれば、人工的にクモの糸を作り出す、あるいはそれに限りなく近づくことができるかもしれない。

  これ以外にも「水族館で水槽内を何百匹、何千匹とかなりのスピードで泳いでいる魚たちはなぜ互いにぶつからないのだろう」「人間はたかだか36~37℃の体温でなぜ体内でこれほどまでに高度な化学反応を起こしているのだろう」など解明できていない生物のもつ潜在的なテクノロジーがまだまだあるのだ。

  こうした技術は、「生物模倣技術」と呼ばれているが、これに「持続可能な自然素材を活用して、従来の人工素材を上回る性能を実現させた技術」を加えて私はそれをネイチャーテックと呼んでいる。

  ネイチャーテックは総じてライフサイクルの環境負荷が小さく、かつ自然のエンジニアリングとして歴史のなかで環境に調和してきた時を経た技術であるため、副作用も極めて小さいのが特徴だ。

  一方、石油なども基本的には非常に長い時間をかけて自然が作り上げた自然素材とも言えるが、現在人類が使用しているような石油の量を短いタイムスケールで再生産することは不可能なため、有限で持続不可能な自然素材と言える。また、それから人工的に合成されたさまざまな樹脂などは、持続不可能な資源から人工のエンジニアリングのプロセスを経たものであるため自然素材とは言えず、したがってこれを活用した技術はネイチャーテックには含まれないことになる。

  ネイチャーテックの代表格として1992年7月にブラジルのバラ大学がダイムラーベンツ社(現在のダイムラークライスラー社)の協力を得てスタートさせた、「POEMA」と呼ばれるアマゾン流域の貧困と環境を守るプロジェクトがある。

  このプロジェクトはアマゾンのマラジョー島において熱帯林の再生事業をスタートさせるとともに、その持続可能な林産資源から自動車部品を生産するというものだ。たとえばココナツの殻を分解して繊維を取り出し、天然ゴムの木からとれた生ゴムと合成して成形し、自動車のヘッドレストを生産するのである。森林を守りながら、地域の未利用資源を活用して付加価値の高い自動車部品をつくるのである。

  それ以外にもPOEMAでは、ヒマシ油などの植物からつくったギア用や油圧用の潤滑油の開発や、アマゾンのヤノマニ族も伝統的に用いてきた植物染料「ウルクン」の自動車用塗料化への開発にも成功している。まさに、“畑で取れるメルセデス・ベンツ”と環境の専門家たちから呼ばれる取り組みである。
  その結果今では、熱帯林を保護したままで5千人以上の新規雇用を生み出した。

  実はこの持続可能な自然素材を活用した自動車部品生産は、熱帯林という生態系の保護につながったことと、新たに雇用が生まれ地域経済が活性化したことのほかに、石油など化学燃料節約につながり、地球温暖化の元凶であるCO2排出も大切するなど一石何鳥もの数多くのメリットを生み出したのである。

  持続可能な社会をつくるためには、これまで見落として来たネイチャーテックにこそ目を向けるときであろう。

 


(慶応大学大学院政策メディア研究科助教授 金谷年展(かなやとしのぶ)