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2005-07-30 18:22:00

『夕刊フジ』 平成17年(2005年)7月

業者にもユーザーにもメリットない耐震改修
「やめた。どうせなら建て直そう」
リフォームのように効果見えず


 4月11日午前7時34分。千葉県北部で震度5強の地震が発生した。

 東京・下町の築43年の木造住宅に住む私たち一家は、朝食の最中だった。

 情報を次々と流すテレビを見つめながら、夫(40)と私は、どちらかともなくわが家の耐震改修の話を始めた。

 いつになく激しい揺れ。わが家は昨秋、取材サンプルとして耐震診断を受け、「大倒壊の危険あり」と判明。3月になってようやく、150万円をかけて「逃げる一瞬」を確保する補強工事をする契約をした。

 だが、本当にそんなことで助かるのか。150万円かける価値はあるのだろうか。

 私はひそかに疑問を感じていたものの、夫には言っていなかった。幸い、契約をした耐震診断・補強専門の都内建築事務所は、相次ぐ耐震診断の依頼で忙しいらしく、契約から数週間を経たこの時まで、連絡がなかったのだ。

 「どうなんだろう」。夫がいう。150万円の耐震補強により建築事務所社長が「保障できる」としたのは「震度5弱」だった。それより強い揺れが、すぐ近くで起きた。「意味がないよ」。私は応じた。「だってこの家、古いから、今お金をかけてもまたすぐ悪いところが出る。いずれは建て直さないとしようがないのに、無駄なお金にならない?」「やめた。どうせなら今、建て直そう」

 耐震性が不十分と見られる、昭和56年の建築基準法改正以前に建てられた住宅は、平成10年の調査では、全国で1400万戸あった。それが15年には1150万戸に減っている。だが国土交通省によると、減少分は大半が「建て替え」による。耐震補強をしたのは、ごくわずかだ。

 政府は減災対策として全住宅戸数5000万個のうち、現在の75%を10年後に90%に引き上げる目標を掲げた。日本建築防災協会の杉山義孝専務理事は「5年間で250万戸が建て替わった。順調に行けば10年後にはあと500万戸建て替わる。(目標達成は)不可能ではない」と楽観視する。

 だが、慶応大学助教授で住宅の耐震化に詳しい金谷年展氏は、「50台以上や、年金生活をしている人たちは、危険な住宅に住んでいても建て替えることもできない」と指摘したうえで、こう断言する。「一方で耐震改修は、業者もユーザーもメリットを感じられない、できればやりたくない仕組みになってしまっている」

 先日、埼玉県で地方の老姉妹が大量の耐震器具などを悪徳業者に売りつけられた事件が発覚したが、不安に付け込んで器具を売ろうとする業者は、今も後を絶たない。詐欺までいかなくとも、「結果をわざと悪くして、過剰な補強を行う業者も少なくない」(業界関係者)との指摘もある。

 このため耐震診断に補助をする自治体の多くは診断と施工の業者を分けることを前提とするが、「床下に潜ったりする必要がある大変な仕事の診断だけを、やりたい業者はいない」(金谷氏)

 一方で受ける側には「リフォームのように効果が見えない」(同)。「建築基準法改正以前の古い住宅を補強しようとすると、限りなくお金がかかる。診断の信頼度を高めるため基準を強化すると、「お金がない人には極めて残酷な結果になってしまう」

 その指摘は、耐震補強に私が感じていた疑問そのものだった。(内藤敦子)